規格外の卵のアップサイクル(※)を目指しバウムクーヘン専門店を開業「有限会社 富田種鶏場」|宮崎県都城市ふるさと納税特設サイト

規格外の卵のアップサイクル(※)を目指しバウムクーヘン専門店を開業「有限会社 富田種鶏場」

 元気で魅力的な街には素敵な大人がいる。「有限会社 富田種鶏場」の冨田大輔さんは、そんなことを感じさせてくれる都城のキーマンのひとりです。約20年間の東京暮らしを経て、家業を継ぐべく都城へとUターンした冨田さん。種鶏場を経営しつつ「受け継いだ事業をさらに発展させていくのが自分の役割」と規格外の卵を活かしたバウムクーヘンの製造に挑戦し、2022年にショップ&カフェ「ユウヒテラス」を開業しました。その美味しさは口コミであっという間に広がり、今では全国から注文が入るほどの人気に。その誕生の背景や都城への熱い思いを伺ってきました。

 ※創造的再利用。副産物などに価値を与え、新しい製品へと生まれ変わらせること

 

仕事、子ども、家族…。
人生が大きく動いたタイミングで
帰郷を決意

「種鶏場」とは、ひよこが孵化するための種卵(受精卵)を生産する農場のこと。

冨田さん:曽祖父が始めたのですが、それがいつからかという具体的な記録は残っていないんです。でも、祖父が昭和15年にひよこの雌雄鑑別技術を学べる名古屋の学校に入学したので、その頃には家業となっていたみたいです。当時、その技能を持っている人は九州に2人だけで、祖父は戦時中、招集されても特殊技能保持者ということで戦地に行かされることはなかったそうですよ。

曽祖父から祖父、父へと代々受け継がれた「富田種鶏場」でしたが、冨田さん自身は養鶏に興味がなく、東京へ進学・就職。

冨田さん:社会人4〜5年目くらいの時に父から〈都城に帰らないのか?〉と聞かれましたが、〈まったく考えていない〉と返事をしていました。ですので両親は自分たちの代で閉業するつもりでいたようです。しかし、ほどなくして東京での仕事に転機が訪れ、自分でビジネスを始めたいという気持ちが徐々に膨らんでいきました。同じ頃に子どもの進学や祖母の逝去も重なり、改めて自分の人生を見つめ直した際、きっと今がターニングポイントなのだろうと感じて帰郷を決意しました。

こうして冨田さんは家族を連れて10年前にUターン。イチから養鶏の仕事を覚え、徐々に慣れてきた頃、次のビジネスプランを考え始めました。

 

最新のAI技術と新鮮卵から生まれる
オリジナルバウムクーヘン

都城の中心地から離れた山間にある「富田種鶏場」。豊かな自然の中で鶏たちは平飼いされ、のびのびと育っています。とれた卵は孵化場へと納品されていきますが、中にはサイズや形状などが規格外で出荷できない卵もあります。

冨田さん:鶏たちが産んでくれた卵をひとつでも無駄にしたくないと事務所で安く売ったり、スタッフが持ち帰って食べるなどしていたのですが、もっといい方法でアップサイクルできないかと考えていました。そんな頃、ニュース番組で“職人の技術を学習するバウムクーヘン専用AIオーブン”があると知り、興味を持ってメーカーに問い合わせたところ、お菓子屋さんではなく私たちのような生産者本人から問い合わせがあったことがとても嬉しかったそうで、それからとんとん拍子に話が決まりました。

メーカーは冨田さんにバウムクーヘンづくりのノウハウも提供。自社の卵の良さを生かすべく、冨田さんは何度も試作を重ね、その甲斐あって風味豊かなオリジナルバウムクーヘンが完成しました。

 

店名とバウムクーヘンに込めた
家族や地元への深い愛情

保存料・膨張剤・香料・着色料など一切不使用の「ユウヒテラス」のバウムクーヘン。その美味しさは口コミで広がり、まずは地元で人気に火がつきました。

冨田さん:うちのバウムクーヘンは子どもから高齢の方まで安心して食べていただけると自負しています。養鶏の仕事もあるので営業は木金土曜の週3日だけですが、いつもたくさんのお客様に来ていただいて感謝しています。

店名の「ユウヒテラス」は店から見える夕陽の美しさから名付けられたそうですが、実は「ユウヒ」とロゴマークの梅柄(写真下)は冨田さんのふたりのお子さんの名前にも由来しているのだとか。

冨田さん:いつか地元の子どもたちが都城を出ていくことがあるかもしれません。もし彼らが他の土地に行っても〈地元の名物といえばユウヒテラスのバウムクーヘン!〉と胸を張って自慢できるような商品を作り続けたいと思っています。

子どもが誇りに思える都城の名物菓子にする! 冨田さんはそんな目標を掲げ、真摯な姿勢でバウムクーヘンを焼き続けています。

 

Uターンから10年
今、実感する都城の良さや
次世代に伝えたい想い

「ユウヒテラス」の店内には、昔、国立競技場で使われていた椅子や可愛い雑貨などが並び、冨田さんのセンスの良さが伝わってきます。

冨田さん:自宅から持ってきた私物がほとんどです(笑)。主役はバウムクーヘンなので、店に趣向を凝らす必要はなかったのかもしれませんが、どうせ作るなら楽しげな空間にしたいと思って。こういう“遊び感覚”を楽しめるのも都城に帰ってきたからこそ。道にしても、家にしても、物理的に広いスペースがあると、心に余裕が生まれますね。自分にとっても家族にとっても都城へのUターンは正解だったと思います。

冨田さん:今、都城にはすごくいい風が吹いているように感じています。経営者たちのセンスがよく、皆が一丸となってふるさと納税日本一を達成できたことで市民の心も沸いています。数ある地方都市の中でも特に鶏口牛後(※)な気質の人が多いので、今後ますますエネルギッシュな街へと成長していくと思います。〈この街から早く出たい!〉と思っていたあの頃の自分のような子どもたちに、この街のポテンシャルの高さを伝えたいですし、いい刺激を与えられるような存在になれたら嬉しいですね。

 ※鶏口となるも牛後となるなかれ:大規模な組織の末端よりも小規模な組織で地位を確立するほうがよいという意の四字熟語

 

 

<編集部コメント>

取材前日、都城市中心地の「テラスタ広場」ではレジェンドDJを招いたDJイベントが行われており、オトナも子どもも一緒になって音楽を楽しんでいました。その中には冨田さんの姿も。「公共の場で(苦情が出かねない)こんなイベントができるのは、行政と民間が一体となって街を盛り上げていきたいという気風があるから」と冨田さん。これからも高感度なオトナたちがこの街を楽しく盛り上げていってくれるに違いない!と確信しました。(N)

 

ショップは冨田さんと奥様、スタッフの3名で営んでいる。店の前にはシンボルツリーの梅の木も。

 

ミニチュアチェアと卵。左の卵は双子の大卵、右の小さな卵は若鶏が初めて産んだ「初たまご」。縁起物の卵とされている。

 

 

バウムクーヘンはプレーン、抹茶、黒糖、柚子の4種類を用意。イートインでコーヒーと一緒に味わうのもいい。

 

店の窓からは美しい霧島連山を望める。

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