エサにこだわり、卵から豚、牛まで個性的なブランドを展開「河中農園」
都城に訪れると、あちらこちらで見かけるこの看板。卵の自動販売機に取り付けられています。卵の自販機も珍しいのですが、「豚肉がもらえるよ!」との文字に、釘付けになりました。卵を買うと豚肉がもらえるって、どういうこと? 謎が深まるこの看板。ずっと気になっていましたが、今日、ようやく謎が解けます。
本日お伺いする「河中農園」は、この自販機の設置主。「きみ恋卵」の生産者です。もちろん、「きみ恋卵」も気になるところです。どんな卵が待ち受けているのか。ワクワクを抑えながら、謎を解明すべく直売所にうかがいました。
【「卵を買って豚肉ゲット」の真相に迫る】
さすがは直売所。卵がずらっと並んでいます。早速、代表取締役の河中勝さんに卵の自販機についてお尋ねしました。
「卵の自販機、珍しいでしょう。変わったことをするのが好きなんですよ。都城から鹿児島にかけて30カ所ほど設置しています。10個200円で、中に賞味期限の紙が入っていましてね。これを20枚集めて直売所に持ってきてくださった方に、豚肉をプレゼントしています」
30カ所も設置しているなんて、驚きです。卵は毎朝、新鮮なものに入れ替えているといいます。それにしても、豚肉のプレゼントとはありがたいサービス。でも、なぜ豚肉なのでしょう。
「うちは、豚の生産もしているんですよ。豚肉を引き換えにいらっしゃるお客様、多いですよ。自宅用に卵を買うだけでなく、お土産に利用される方もいらっしゃいます。でも、賞味期限の紙は集めているから、それだけはもらって帰るなんて方も(笑)。対面販売の直売所だからこそ、お客様の声もダイレクトに届く。そんな話が聞けるのも、楽しみの一つですね」
なるほど、おもしろい。顔が見える関係だからこそ、お客様の声も聞こえる。それが生産する喜びにつながる。いいサイクルが、ここから生まれているようです。
【卵、豚、経産牛。いいものをお客様にお届けしたい】
「河中農園」は、もともと飼料の問屋さんでした。40数年前、創業されたのは勝さんのおじいさま。当時、都城には50を越える飼料店があったそうですが、いまでは数社に激減。勝さんの会社では飼料の販売に加え、卵の生産、養豚、さらに経産牛の飼育まで手がけています。
畜産王国・都城のなかでも、鶏、豚、牛すべての畜産業に挑戦している事業者は珍しいそう。
「人がやらないことにチャレンジしたいと思っています。3つの分野に手を出すということは、人の人生の3倍、苦労もするけど経験も積める。そのなかで新たな可能性を発掘して、いいものをつくりたい」
と、勝さん。その言葉を裏づけるように、卵、豚肉、牛肉のすべてに、「河中農園」ならではの個性があります。
【個性が光る2つのブランド卵】
「河中農園」の卵には2つのブランドがあります。一つは、自販機でおなじみの「きみ恋卵」(左)。そしてもう一つは、濃厚な黄身が特長の「よかもよか卵」(右)です。どちらも、親鶏のエサには乳酸菌を使用。加えて「よかもよか卵」の親鶏には、6種類のハーブとアスタキサンチン配合のエサを与えています。
二つの卵を割って、比べてみると、「きみ恋卵」は、さらっとした印象。通常卵と比べると、レシチンという成分が1.2倍多く含まれるそうです。そのためか、お菓子づくりに使うと膨らみがいいとか。生で味わってみようと、卵かけご飯にしていただきました。箸でつつくと黄身がふわっとご飯に広がって、ちょうどいい塩梅。おかわりが欲しくなるおいしさです。
一方の「よかもよか卵」は、黄身も白身も盛り上がっていて嵩が高い。エサにアスタキサンチンという赤い色素が配合されているため、黄身の色が濃く、驚くほどの弾力です。味は、とにかく濃厚。コクがあって、初めて出会うおいしさです。
「『よかもよか』とは、都城弁で『ものすごくいい』ということ。いいエサをたっぷりと食べさせ、いい水を飲ませて誕生した特別な卵です」
卵にもこんなに個性があるなんて、知りませんでした。
【豚も牛も、手をかけたぶんだけおいしくなる】
豚のエサにもこだわります。ジンジャーやナツメグなど4種類のハーブを配合。そのため臭みがありません。さらにメスに限定し、キメ細かい肉質を実現しました。そのためブランド名は「クイーンハーブ豚」。繁殖から肥育、出荷まで、大切に扱っています。
「お客様からは脂身がおいしいとのお声をいただきます。そのため、バラ肉が一番人気。さわやかな甘みがあって、鍋にしてもアクが出にくい。抗酸化作用があるともいわれています」
勝さん自身、初めて自社の豚肉を食べたとき、そのおいしさに驚いたとか。豚肉は脂が多いと敬遠される人もいますが、「クイーンハーブ豚」はさっぱりしていて、とても食べやすいのです。
3代目として、経営を引き継いだ勝さんが、自分の手でゼロから始めた事業。それが、経産牛の飼育です。経産牛とは出産経験がある牛のこと。市場に出ている一般的な牛肉は、出産経験のない若い牛です。そのため年齢を重ねた経産牛は肉質が固いと言われますが、味は若牛よりも間違いなくおいしいのだとか。本当の肉好きは、経産牛を好むそうです。
「経産牛の飼育は2001年から。2頭からのスタートでした。少しずつ増やしていって、いまは180頭を抱えます」
と、着実に実績をあげています。
ブランド名は「河中のおかあちゃん牛」。平成29年の畜産共進会では、平成22年生まれの「ふくえ号」が特別賞を受賞しました。勝さんの農場で一番の古株は、平成12年生まれ。一般的な肉牛の牛舎ではまず出会えない年齢です。
【心をひとつに支えるスタッフがブランドを支える】
卵、豚肉、牛肉。そのすべてに納得のいく結果を出している「河中農園」。その背景には、心をひとつに作業をしてくれるスタッフの存在があります。
「スタッフは『日本一をめざしましょう!』と言って頑張ってくれます。この業界は、やればやっただけ結果が出るもの。手をかけるほどに、いいものができる。そのおもしろみを実感すれば、スタッフのモチベーションも上がる。頼もしい限りです」
人を大切にする。勝さんのポリシーが、スタッフみなさんの士気にもつながっているようです。
「3代目は店を潰すとよく言われますが、僕の手でもっと盛り上げていきたい」
そう語る勝さんに、お父様で会長の功さん(右)は、
「もう、すべて任せていますから」
と、安心しきった表情で応えられます。
実は、中学1年生になる勝さんの息子さんが経営に興味を持っているとか。4代目が誕生する日も、そう遠くはないのかもしれません。未来に続く河中農園の物語も楽しみです。
〈編集部コメント〉
都城では、運動会の前に生卵を飲んで精をつけるという習慣があるそうです。「きみ恋卵」や「よかもよか卵」なら、もっと効果がありそう。ちなみに都城弁では、「も」で言葉をつなぎ反復させると、最上級の表現になります。ものすごくおいしい場合は「うめもうめ」というのです。「うめもうめ」食材の宝庫、都城は本当に「よかもよか」ところ、ですね。