着物文化の裾野を広げる“街の着物よろず相談所”「きぬたや」|宮崎県都城市ふるさと納税特設サイト

着物文化の裾野を広げる“街の着物よろず相談所”「きぬたや」

 「日本の美しい着物文化を伝え、守っていきたい」との熱い想いで、着物のクリーニングやしみ抜き、染め替え、寸法なおし、レンタル、リメイクなどに取り組んでいる「きぬたや」。店主の黒木勝彦さんは〈染色補正一級技能士〉の資格を持ち、高い技術でお客様から厚い信頼を集めています。「今は冠婚葬祭の際も、和装の人は少なくなりましたね。しかし、日本人の和服姿は世界に誇れるもの。なんとか着物文化を次世代にも伝えていきたいと思っています」と黒木さん。着物が“普段着”から“晴れ着”となった今、なんとか人々が着物を気軽に着る機会を増やしてほしいと願い、裾野を広げるために尽力する「きぬたや」の活動を取材しました。

 

大道具をつくる仕事から
着物の世界へ。

 「創業時の記録は残っていませんが、明治35年には祖父が染色屋をやっていたようです。現在、私が三代目。でも、若い頃、家業を継ぐ気持ちはなかったんですよ(笑)」。黒木さんは高校卒業後、東京の大学へ進学。卒業後はアルバイトしていた美術装置や大道具などを制作する会社にそのまま残り、大阪万博開催時は「太陽の塔」の中の装置なども手掛けたそう。「仕事自体は楽しかったんですが、万博が終わって仕事も減り、27歳の頃、そろそろ潮時かなと思い始めました。家業が着物に携わっていた影響からか着物は好きだったので、日本橋の呉服店に就職しました」。老舗呉服店で販売や企画などの仕事に携わり、着物全般の知識を身に付けた黒木さんは33歳で都城に帰省。ご両親とお兄様が営んでいた染物店を手伝いつつ、しみ抜きの勉強を始めることにしました。

 

毎月、しみ抜き技術を学びに福岡へ。
10年間通い続け、資格を取得!

 黒木さんはしみ抜きの技術を学ぶため、10年間、毎月都城から福岡に通い、染色補正一級技能士の資格を取得しました。「それまではいろんな研究会に顔を出したり、いい先生がいると聞くと訪ねて技術を教えてもらったりと、独学が基本。正直、自分がどの程度の仕事ができているのか不安がありました。ある日、お預かりした着物のしみが取りきれず、お客様から“こんなんだったら、最初から京都に出せば良かった”と言われたんです。ガッカリしましたが、冷静に考えてみたらその通りかもしれないと思い、改めて資格取得を目指してキチンと学ぼうと決意したんです」。

 資格取得後は一級技能士だけが参加できる全国大会に出場。「21人中6位になりました。これでやっと自分の技術がプロとして通用するんだという自信が持てるようになりました」。黒木さんのもとには毎日、“着物に関する困った!”を解決すべく、お客様が駆け込んできます。思い出が詰まった1着をなんとか美しく再現しようと、日々、着物と真摯に向き合う黒木さん。都城の人々にとってここは〈着物の病院〉のような存在なのです。

 

着物離れを少しでも食い止めたい。
そのために、やれることはすべてやる!

 かつて日本人にとって着物は〈普段着〉でしたが、今ではすっかり〈晴れ着〉に。「本来、着物は楽に着ていいはずなのですが、選び方から着付け方まで何かと決まりがあるうえ、お手入れなど煩わしいことも多く、それが着物離れの一因になっているんです。着物離れを食い止めるのは難しいのでしょうが、やれることはなんでもやろうと思っています」。そんな思いから「きぬたや」では着物の出張虫干しも行っています。「着物は一年に一度出して、虫干しするだけでトラブルを防げるのですが、やらない方が多い。広げなくても、たとう紙を広げて風を通すだけでもいいんですよ。でも、昔の家と今の家はつくりも違うので風の通り道がなかったりする。だから出張してお手入れのお手伝いをしています。自分で畳めないという方には畳み方もレクチャーします」。着物文化を守るために常にベストを尽くす…それが黒木さんの矜恃です。

 

着崩れせず、楽に着られる
「二部式着物」を提案。

 着物をもっと気楽に楽しんでもらうべく「きぬたや」では二部式の着物を提案しています。「お手持ちの着物を二部式に仕立てられるんです。二部式だと上下が分かれているから着崩れることがなく、気軽に着られます。帯も作り帯にできるので楽ですよ。大切な着物にハサミを入れるのは気が引ける方もいらっしゃるかもしれませんが、箪笥の肥やしにするより、着る機会が増える方がいいんじゃないかと。着てみると二部式というのは外目にはまったくわかりません」。二部式の着物の仕立てはふるさと納税の返礼品としても提供されています。

 「着物を着る人が減ることで、つくり手も減り、技術が継承されなくなってきています。また、刷毛や筆などの道具も、それをつくる技術者も少なくなってきて、手に入りにくくなっています。絹糸をつくる蚕の生産も減っています。着物に携わっていると、伝統文化が危機的な状況にあることを痛感するんです。これは悲しい状況ですね。

 どのシーンでどんな着物を?着付けは?髪は?クリーニングは?お手入れは?と難しいことが多くてハードルが高く感じてしまう方も多いのでしょうが、私はそんな約束事よりも、着物が楽しい!と思っていただくことが大切ではないかと思います。その楽しさをこれからも伝え続けていきたいですね」。現代のライフスタイルに合った着物のあり方を模索する「きぬたや」。これからも都城の着物文化を支えていってくれることでしょう。

 

 

<編集部コメント>

このままでは日本の着物文化が消えてしまう…黒木さんの危機感が強く伝わってくる取材でした。まずは箪笥の肥やしになっている着物の虫干しからはじめ、せめて1年に一度くらいは袖を通そう!と心に誓いました!(N)

 

「若い人が着崩しすぎるのはどうかとも思うけど、ああいう感じもいいと思わなくちゃいけないのかなとも思います。例えば、織田信長なども本当にいろんな着方をしている。文化が動くときはそういうものなのかもしれませんね」と黒木さん

 

「きぬたや」では着物をリメイクした手作り小物も販売している

 

着物のレンタルも行っている。中国三大刺繍のひとつ、汕頭(スワトウ)刺繍を施したモノも

 

しみ抜きをする黒木さん。「最後は人の手の温度がいい。落ちるように祈りながら挑みます」。

 

黒木さんは着付け教室などに出向き、簡単なしみ抜き法のレクチャーも行っている

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