「霧島黒豚」の生産から加工まで、豚のおいしさを追求する「林兼産業株式会社」
「キリシマハム」のハムや「マルハ」の魚肉ソーセージを食べたことはありますか? きっと多くの方が、一度は食べたことがあると答えるに違いありません。
今回、訪れた「林兼産業株式会社」は、この2大ブランドを抱える老舗。「マルハ」の工場は山口県の下関市に、「キリシマハム」に代表される畜産食品事業部は、ここ都城市に工場があります。
都城は畜産王国。全国的には宮崎牛が有名ですが、市町村別の統計では、豚肉や鶏肉も日本一の産出額を誇ります。
県内ではブランド化されている豚肉も多く、特にエサや安全性にこだわった豚肉を「宮崎ブランドポーク」として認証しています。林兼産業が飼育から販売まで一貫して手がける「霧島黒豚」も、宮崎ブランドポークの一つです。
【豚肉のしゃぶしゃぶは宮崎県の定番&テッパン料理】
「宮崎に来て、最初に豚肉のしゃぶしゃぶを食べたときには、驚きました」
と言うのは、都城工場で20年以上のキャリアを持つ入江和博さん(写真右)です。入江さんは転勤で、下関から都城にやって来ました。転勤して間もない頃、ごちそうになったのが、豚しゃぶです。
宮崎県民にとって、豚肉のしゃぶしゃぶは定番メニュー。しかし、大分県出身の入江さんにとって、しゃぶしゃぶといえば牛肉。豚肉を使うこと自体が新鮮で、驚きでした。
「正直に言うと、『豚肉でしゃぶしゃぶなんて、おいしいの?』と思っていたのですが……。あまりのおいしさに驚きました。さっぱりしていて、うま味があって。牛肉よりうまいと感じました。以来、しゃぶしゃぶは豚肉と決めています。」
しゃぶしゃぶにすると、豚肉が持つ本来の味が際立ちます。そんなメニューにこそ「霧島黒豚」がいい。入江さんは言います。
「冬は豚バラ肉でしゃぶしゃぶ。最高ですね。焼き肉にするなら、肩ロースがいい。霧島黒豚は脂身もおいしいですよ。」
【味と安全性をきわめた「霧島黒豚」】
「霧島黒豚」は、雄大な霧島山のふもとで育てられています。その規模は大きく、黒豚の専用農場としては日本最大級。ISOの認証を受け、安全管理にはお墨付きを得ています。
黒豚といってもさまざまな種類がありますが、ここでは原種といわれるバークシャー種にこだわっています。イギリスが原産の種で、身が引き締まり、食感はモチモチ。脂身に甘みがあって、うま味が濃いのが「霧島黒豚」の特長です。
もう一つスゴイところは、個体によるバラつきが少ないこと。つまり、どれを食べても同じようにおいしいのです。それにはヒミツがあります。
その一つはエサ。おいしい肉質をつくるために、長年にわたって研究を重ねた自社開発のエサを与えています。生育のステージによって給餌方法を変え、個体差が少ないように育てているのです。
管理は24時間体制。豚をリラックスさせるために、農場にはクラシック音楽も流れているそうです。
これだけの環境を用意できるのが、企業養豚の強み。愛情をかけて「霧島黒豚」は育てられています。
【生産から加工までの一元管理で、責任を持って消費者へ】
林兼産業では、豚のと畜や加工、販売までを担っています。農場からはじまる全工程でISO22000の認証を得ているため、徹底した安全管理が実現するのです。
一日に処理される豚は、黒豚だけで340から350頭。白豚も入れると600頭になるとか。改めて、命のありがたみを感じます。
「農場で、丹精込めて育てられた黒豚を丁寧にと畜して、加工する。この一貫体制だからこそ、責任を持って消費者に安全安心がお届けできるのです」
製造管理を任された入江さんの力強い言葉です。
加工工場を見せていただきました。
ここでは、「霧島黒豚」のロース肉を塩麹や味噌につけ込み、1枚ずつ個包装にしています。
豚肉の味噌漬けといえば、豚肉料理の定番。現在この工場では、西京味噌や八丁味噌など、数種類の味噌漬けがつくられています。なかでもいま、注目されているのが、「西郷どん味噌漬」です。
この「西郷どん味噌」とは、都城の老舗「ヤマエ食品工業」の商品。2018年のNHK大河ドラマに西郷隆盛が描かれることを記念してつくられました。
意外にも、西郷隆盛は味噌づくりの名人だったそうで、当時の文献をもとに、味を再現しています。その味噌とコラボした味噌漬けのお味は、やや甘め。香りがよくやさしい味です。
【豚肉の持つポテンシャルの高さに、感服】
「味噌漬けや麹漬けは、個包装だから使いやすいと評判も上々です」
そう教えてくれたのは、山根章太郎(写真左)さんです。愛媛県出身の山根さんは、ご実家への贈り物にも個包装の味噌漬けを送るのだとか。焼くだけで簡単に、おいしく食べられると、ご家族からも喜ばれています。
「霧島黒豚の加工品はどれもおいしいのですが、特に僕が気に入っているのは、生ハム。もちろん、ワインとの相性もいいですよ」
黒豚の生ハムですって! 山根さんの言葉に、思わず聞き返してしまいました。それは、おいしいに決まっています。家に持ち帰り、早速いただきました。
国産の生ハムでこんなにおいしいのは、初めてです。肉のうま味がしっかりしていて、香りもいい。肉に弾力があり、口当たりも最高です。
これも、素材である「霧島黒豚」がおいしいからこそ、なせる味なのでしょう。「霧島黒豚」の懐の深さに、妙に感じ入った取材となりました。
〈編集部コメント〉
加工の方法によって、まったく違う顔をみせる豚肉。同時に、それだけ多くの豚肉を消費していることにも、想いを馳せる必要があります。
入江さんと山根さんの言葉からは、しばしば豚への感謝の気持ちを感じました。おいしいと喜ぶだけでなく、感謝も忘れてはならない。消費者である私たちの自覚も大切だと、つくづく感じました。